5/28,29 第6回 児童期の心と脳の発達の特徴

児童期は、子どもの心と脳が大きく発達する時期であり、とくに認知的な面での変化が顕著である。ピアジェの理論では、この時期は「具体的操作期」とされ、自分の視点だけでなく他者の視点を理解する「脱中心化」、形が変わっても量は同じだと気づく「保存の概念」、原因と結果を論理的に考える力などが育つ。このように、より柔軟で客観的な思考が可能になるのである。
また、記憶や注意の力も著しく発達する。情報を一時的に覚えて使う「ワーキングメモリ」の容量が増え、繰り返し覚える「リハーサル」や、意味のあるグループに分ける「カテゴリー化」といった記憶の工夫も、自分で使えるようになる。そして「メタ認知」、すなわち自分の学び方や考え方を振り返って調整する力も育ち、それが学習の質を高める要因となる。
教育現場では、こうした発達に応じて、図や絵を使ったり、ロールプレイなどの工夫が有効である。また、「スキャフォルディング」と呼ばれる支援方法では、大人が少しだけ手を貸すことで、子どもが一人ではできない課題も達成できるようになる。この支援は、子どものやる気を引き出すことにもつながる。
脳の発達においては、前頭前野の成熟が進み、「実行機能」と呼ばれる抑制、注意の切り替え、情報の更新と保持の力が高まる。授業中に手を挙げるまで待つ行動や、先生の指示を覚えて実行する行動には、この実行機能が関わっている。
また、記憶に関係する海馬も発達し、学びや体験の積み重ねが神経のつながりを強くする。しかし、ストレスや不安が続くと海馬の働きが低下し、記憶や集中に悪影響を与える。そのため、安心して過ごせる環境づくりが重要である。
この時期の子どもは、仲間との関わりを通じて自分の役割や立場を理解し始める。他者との比較を通して「できること」「できないこと」を自覚し、現実的な自己評価ができるようになる。こうした自己理解の深まりは、自尊感情の安定にもつながる。教師や保護者が努力を認めることで、さらに自己肯定感が育まれる。
また、コールバーグの理論にある「慣習的水準」のように、社会のルールや周囲の人の気持ちに基づいて、善悪の判断を行うようになる。
一方、ADHD(注意欠如・多動症)やLD(学習障害)といった発達課題をもつ子どももいる。これらは認知や行動のコントロールの違いによるものであり、「努力不足」と決めつけるのではなく、個別に応じた支援が求められる。たとえば、図やイラストによる説明、短く分けた課題、見通しを持てるような声かけが効果的である。
このように、児童期は「考える力」「感じる力」「人と関わる力」、そして「脳の働き」が互いに関わり合いながら発達する大切な時期である。発達心理学と脳科学の知見をふまえた支援は、教育や看護の現場において子どもの成長を支えるための重要な視点となる。

注) スキャフォルディング(Scaffolding)とは学習や教育の場面で使われるサポートの方法です。簡単に言うと、学習者が自分で問題を解決できるようになるまで、一時的に支援を提供することを指します。教育の場面では、教師が生徒にヒントを与えたり、例を示したりすることで、難しい課題を少しずつ理解できるようにします。そして、生徒が自分でできるようになったら、その支援を減らしていくのがポイントです。この方法は、特に言語学習や問題解決のスキルを伸ばすのに役立ちます。学習者が自信を持って次のステップへ進めるようにするための「足場作り」と考える。

脳の構造と機能について、まず理解しておく図 https://wp.me/a9O0e7-Nb

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5/21,22 第5回 幼児期の心と脳の発達の特徴

幼児期は言語と認知の著しい発達の時期であり、脳の可塑性が高く、外部からの刺激が発達に大きく影響する。ピアジェはこの時期を「前操作期」と位置づけ、自己中心的な思考や象徴的な空想遊びが見られるとした。ヴィゴツキーは、他者との対話が思考を育てるとし、独り言のような「私的発話」が行動の調整に役立つとした。語彙の爆発的増加や複雑な文の使用は、周囲の言語環境の影響を強く受け、特に会話の質が重要である。こうした言語発達は「心の理論」や他者理解の土台となり、共感や社会性の育成にも関わる。

また、自己制御の力もこの時期に育まれ、感情や欲求のコントロール、ルールに従う行動などが発達していく。この能力には「実行機能」が関係し、抑制、ワーキングメモリ、柔軟な行動切替が求められる。ふり・ごっこ遊びはこの機能を高める手段とされる。育児者の応答的な関わり、文化的価値観、教育カリキュラムなど、自己制御の発達には多様な環境要因が相互に関与している。

脳の発達面では、言語を担う左脳のブローカ野とウェルニッケ野の成熟が重要である。特に6〜12か月の間に母語音に特化した脳の反応が見られ、「臨界期」以降の言語習得は難しくなる。脳の神経可塑性により、経験によって神経回路が強化されるため、豊かな言語環境は発達を促進する。一方、発達障害や聴覚障害の子どもでは、脳の働き方に違いが見られ、早期の支援と理解が必要である。

看護の現場では、こうした発達の兆候を観察し、保護者との対話や支援機関への橋渡しを行う役割が重要である。絵本の読み聞かせや語りかけは言語発達だけでなく脳の構造的成長にも寄与する。看護師は、医療と教育、家庭と地域をつなぐ存在として、子どもの発達に多角的に関わることが求められる。

資料 人間は、脳の何処を使ってことばを聞いたり、話したりしているのか
https://www.neuropsychology.jp/wp-content/uploads/2025/05/Broca-Wrenicke-field.jpg

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5/14,15 第4回 乳児期の心と脳の発達の特徴

この章では、生まれてから1歳ごろまでの乳児の心と脳の発達について、看護の視点から取り上げた。乳児にとって最も大切なことのひとつが「愛着」である。愛着とは、養育者との間にできる安心できる心のつながりのことであり、乳児が人を信じたり、外の世界に興味をもったりするための土台になる。愛着がしっかりと育つことで、乳児は安心して笑ったり、泣いたり、さまざまな感情を表現できるようになる。

愛着のはじまりには、「共同注視」や「社会的微笑」など、赤ちゃんと養育者が目と目を合わせたり、一緒に物を見たりするやりとりが関わっている。また、愛着の形成には、養育者が乳児の気持ちに気づき、やさしく反応する「感受性」が大切であることも説明されている。

さらに、この章では乳児の脳の発達についても取り上げている。乳児の脳は生まれたときには未熟であるが、経験やふれあいによって急速に成長していく。神経の伝わり方がスムーズになる「髄鞘化」や、視覚や聴覚などの感覚をまとめて処理する「感覚統合」といったしくみが、赤ちゃんの学びや動き、感情の発達を支えている。

また、愛着が脳の働きにも影響を与えることがわかってきている。養育者との温かいふれあいは、オキシトシンというホルモンを分泌させ、乳児に安心感をもたらす。こうした愛着の経験が、将来の社会性やストレスへの強さにも関係してくるのである。

看護の現場では、乳児とその家族がよい関係を築けるように支援することが求められる。愛着と脳の発達について理解を深めることは、看護師として乳児の健やかな成長を支えるためにとても大切である。

https://wp.me/a9O0e7-Mg オキシトシンの説明

    5/7,8 第3回 胎児期と新生児期の心と脳の発達の特徴

    胎児期と新生児期は、心と脳の発達が始まる極めて重要な時期である。胎児は母体内で触覚・味覚・聴覚・視覚といった感覚を順に発達させ、外界からの刺激に反応するようになる。

    特に聴覚は早く機能し、母親の声や周囲の音を聞いて学習している。新生児は泣き声や微笑みなどを通じて快・不快といった情動を表現し、養育者との相互作用の中で感情を発達させていく。このようなやりとりは愛着の形成につながり、情緒の安定や社会性の基礎を築く。

    脳の発達は神経管の形成から始まり、大脳や小脳の成長、神経細胞間の結びつきであるシナプスの増加を経て、感覚・運動・認知といった高次機能が育まれる。さらに、シナプスは使われないものが刈り込まれ、効率的な神経回路が整備される。この過程には環境からの刺激が深く関与しており、適切な刺激が脳の発達を促す。

    母体のストレスや栄養状態は胎児の発達に大きく影響するため、妊娠期の心身のケアが極めて重要である。出生後のカンガルーケアなどの支援も脳の成熟や親子関係の形成に効果がある。

    看護師は、こうした知識をもとに母子への支援を行い、子どもの健やかな成長を支える責務を担っている。

    4/23,24 第2回 生涯発達心理学の概要(脳と心の発達)                            


    第1節 心の発達とは何か
    人間の発達(development)とは,どういうことを指すのか。人間は生まれたときは白紙だといわれる。これは経験論の立場である。この考え方は人間の発達では,環境がいかに大きな影響を及ぼすかということを重視することになる。人間の発達には、生得的な遺伝子が発達要因として隠されている。これが人間の発達に及ぼす場合は、生得説という。環境要因と遺伝要因がお互いに影響しながら人間の発達は行われる。 
    人間のどのような機能が、より遺伝的要因によって規定されるか、また逆にどのような機能が環境要因によって規定されるか。個々の要因、例えば、知能、性格等について細かくみていく必要があろう。

    環境閾値説と輻輳説
    家系研究法と双生児研究法

    臨界期という概念は重要
    ローレンツ先生のカモ親子の散歩のシーンのを想像してほしい。卵からふ化した数匹の小ガモが、親ガモの後から小ガモがよちよちとついて行くシーンだ。小ガモは孵化した直後に、最初に見た動く対象に対して追従行動をしめす。多くの場合は、親ガモの後に追従することになる。もしそれがローレンツ先生であったならば、ローレンツ先生に追従し始め、実の親ガモには追従しない。一度その行為が形成されると、二度と親ガモへの追従は行われない。発達には臨界期が存在するということをローレンツ先生は発見した。
    この刻印付けの現象は、発達の初期にある特性が形成されると元に戻らないことになる。三つ子の魂百までということわざもこのことから示唆されることかもしれない。臨界期の考え方は、その後の発達過程でみられる特性に対して説明する敏感期という概念にも応用されよう。

    発達を捉えるとき、そこには発達理論がある。
    発達の初期の段階、例えば、青年期までの発達過程を分析した理論としては、
    ピアジェ、ヴィゴツキ-の理論が有名である。また、人生の初期から老人に至る人生を俯瞰したものとしては、エリクソンの生涯発達の理論が有名である。詳細については添付資料参照すること。成人期以降の発達に対する理論についてはこの章では扱わない。
    もう一つ重要な発達の捉え方に、発達課題というものがある。各発達段階には、その段階で成し遂げてないといけない宿題みたいな課題があるという捉え方である。この課題をうまく達成してないと、次の発達がうまく遂行できないということだ。たとえば、青年期には、異性との恋愛などが発達課題として挙げられよう。

    心の発達と同時に人間は生物である故に、身体の発達を無視して心の発達を論ずることはできない。心と身体は同時に発達していくのであるから、心の発達を理解しようとすると、どうしても身体や脳の発達を無視することはできないであろう。
    身体の発達について少し考えてみることにする。身体の発達にも原理がある。体の発達には上昇的な発達時期と比較的安定的な発達時期がみられる。上昇的な発達時期は乳幼児から青年の時期であろう。その後は身体的な発達は緩やかな負の発達を辿り、最終的には死を迎えることになる。また、発達には順序性というものがある。1つは、上部から下部への発達、例えば、頭部、首、胸、足、足首、また、中心部から末梢部の順序性がある。これは、肩、腕、手首、指先へと発達していく。箸をうまく使えるようになる行為の観察で、この発達過程がよく理解できよう。

    第2節 脳と身体の発達
    次に脳の発達について若干説明しよう。
    脳神経のことをニューロンという。ニューロンが集まって脳という塊になる。1つのニューロンは神経細胞、髄鞘、樹状突起などから構成されている。ニューロンの集合体が脳である。生誕後の脳は発達し、心の発達を支える物理的存在となる。脳がないと心は存在しない。ここでは脳の詳細については述べないが、乳児からの発達過程で、脳のニューロンも変化する。樹状突起の形成の発達について若干説明しよう。樹状突起が伸びていくことが、発達の1つの指標として捉えることができる。樹状突起の伸長の程度は、ピアジェの発達段階と対応すると考えられている。たとえば、ピアジェの発達段階での具体的操作期と形式的操作期では、樹状突起の密度が変化するということを仮説的に説明できる。前操作期の幼児期では樹状突起の密度はさらに貧弱である。

    第3節 脳と心の相互作用の基本的枠組(個人システムと社会脳の発達)
    最後に「社会脳」という概念について説明しよう。
    前回の講義で、「ミラーニューロン」のビデオを視聴した。
    人との関係の中で、ミラーニューロンを鍛え、人間は社会性を発達させていく動物である。社会性の発達は、一般には、母子関係から、家族関係、学校環境関係、そして、職場を初めてとす社会関係のなかでなされる。その関係には常に他人が存在する。人生の中で、親、兄弟(姉妹)、友達、先生、同僚、先輩らと自分の脳と彼らとの脳を共有しながら生活している。言い換えると、彼らの脳と自分の脳を共有していると言える。共有することで、自分の脳を形成して生きていく。そこでできた自分の脳は社会脳である。社会脳は心と身体とともに存在する脳である。社会脳は、別の言い方をすれば、環境脳ともいえる。生涯発達心理学では、この社会のという視点で、脳と心の発達を捉えていくことが重要になる。

    web課題コメントは締め切りました。

    講義資料添付 https://wp.me/a9O0e7-L8

    4/16,17 第1回 生涯発達心理学を考える

    1. オリエンテーション
      講師紹介 
    • 琉大名誉教授 放送大学教授 沖縄学習センター所長
    • 放送大学と浦添看護の関係 提携校とは
    • https://ssl.urasoe-ns.ac.jp/course/open_univ.html  放送大学との連携
    • 1982 沖縄赴任 当時から 看護学校で講師、 那覇看護、コザ看護
    • 浦添看護との関係は、 元は県立の看護学校、その特色は
    • 沖縄の看護学生の特徴とは

    人生における、人の悩みは

    ミラーニューロンのビデオ参照

    幸せとは何か  生涯発達心理学において考えていきたい

    Alfred Adler   アドラー心理学 

    「生涯発達心理学」講義概要添付  
                  本講義では、心と脳の発達の両視点から、人間の生涯発達について統合的に理解することを目的とした科目である。子どもから成人そして老人にいたる各年齢層における心理的変化を、それを支える脳の発達の観点を加えながら学ぶ。将来看護実践の現場で仕事をしようとする学生にとっては、重要な科目になるに違いない。

    webコメント提出は締め切りました。

    山梨学院大学特別講義

    心理学(人間のこころの発達)の学びの中で、脳を理解するということの意味について
    資料・添付

    脳と心は切り離せない存在だ。
    脳が変化すれば,心も変わる。

    コンピュータの世界では,ソフトフェアが進化すればそれに合わせてハードウェアのCPUもそれに追従しアップする。どちらかといえば,コンピュータの世界では,ソフトウェアにハードが追従しているようだ。

    ところで,
    人間の場合は,心と脳が相互に関係に,ある時は脳が心を支配し,ある時期は心が脳の発達を促す。
    脳と心は相互に関係作用を繰り返しながら変化し続けるのだ
    言い換えると,
    その相互作用は,生まれてから死に至るまで変化し続ける。
    ここで重要なことは
    人間の脳と心関係では,発達という概念が重要になる。

    人間では,生まれてから死に至るまで,脳と心が相互作用しながら発達していく。
    生物である人間は,CPUである脳も,心が変わるとそれに合わせて変化する。

    学生の講義コメント
    今日の講義を受講して,各自が考えたことについて,コメントを記入してください。
    締切 11/6 pm5:00 期限厳守


    9/13 人間関係の実際(1)

    カウンセリングと非支持的心理療法 テキストP104 第6章 カウンセリングと心理療法 参照
    カウンセラーに求められる3つの条件とは
    1. 正確な共感的理解
    2. 無条件の肯定的関心
    3. カウンセラーの真実性(一致)
    このような態度は患者・看護師関係にも通じるものがあります。


    自己表現と社会的スキル
    社会的スキルの3領域のプロセスについて,自己評価を行ってみましょう。(配付資料参照)
    a) 対人関係開始スキル

    b) 対人関係維持スキル

    c) 自己主張スキル

    社会的スキルとアサーション
    アサーショントレーニング
    アサーションとはどんな態度を指すのか。アサーションについて,DESC法について,自己評価を含めて検討
    p148の平木による「アサーション度チェックリスト」を各自で実施してみる。DESC法について吟味してみる。

    日常場面でのアサーションについて,自己表現のタイプの視点から見直してみることにする。P144③自己表現のタイプ参照。
    先ずは社会的スキルについて考えてみる。言い換えると人とのかかわり方のこと。
    即ち、「新しく友達をつくり,その友達との人間関係を維持し,その中で適切な自己主張がどれだけできるか」は,みなさん方にとっては学生生活を送る上で,また,人間形成上重要な要素になるに違いないと思います。

    課題:関係維持・関係開始、自己主張の領域の3つの観点から、あなたはどんな自分に気づきましたか。
    締切 9/14 pm5:00 時間厳守