4/23,24 第2回 生涯発達心理学の概要(脳と心の発達)                            


第1節 心の発達とは何か
人間の発達(development)とは,どういうことを指すのか。人間は生まれたときは白紙だといわれる。これは経験論の立場である。この考え方は人間の発達では,環境がいかに大きな影響を及ぼすかということを重視することになる。人間の発達には、生得的な遺伝子が発達要因として隠されている。これが人間の発達に及ぼす場合は、生得説という。環境要因と遺伝要因がお互いに影響しながら人間の発達は行われる。 
人間のどのような機能が、より遺伝的要因によって規定されるか、また逆にどのような機能が環境要因によって規定されるか。個々の要因、例えば、知能、性格等について細かくみていく必要があろう。

環境閾値説と輻輳説
家系研究法と双生児研究法

臨界期という概念は重要
ローレンツ先生のカモ親子の散歩のシーンのを想像してほしい。卵からふ化した数匹の小ガモが、親ガモの後から小ガモがよちよちとついて行くシーンだ。小ガモは孵化した直後に、最初に見た動く対象に対して追従行動をしめす。多くの場合は、親ガモの後に追従することになる。もしそれがローレンツ先生であったならば、ローレンツ先生に追従し始め、実の親ガモには追従しない。一度その行為が形成されると、二度と親ガモへの追従は行われない。発達には臨界期が存在するということをローレンツ先生は発見した。
この刻印付けの現象は、発達の初期にある特性が形成されると元に戻らないことになる。三つ子の魂百までということわざもこのことから示唆されることかもしれない。臨界期の考え方は、その後の発達過程でみられる特性に対して説明する敏感期という概念にも応用されよう。

発達を捉えるとき、そこには発達理論がある。
発達の初期の段階、例えば、青年期までの発達過程を分析した理論としては、
ピアジェ、ヴィゴツキ-の理論が有名である。また、人生の初期から老人に至る人生を俯瞰したものとしては、エリクソンの生涯発達の理論が有名である。詳細については添付資料参照すること。成人期以降の発達に対する理論についてはこの章では扱わない。
もう一つ重要な発達の捉え方に、発達課題というものがある。各発達段階には、その段階で成し遂げてないといけない宿題みたいな課題があるという捉え方である。この課題をうまく達成してないと、次の発達がうまく遂行できないということだ。たとえば、青年期には、異性との恋愛などが発達課題として挙げられよう。

心の発達と同時に人間は生物である故に、身体の発達を無視して心の発達を論ずることはできない。心と身体は同時に発達していくのであるから、心の発達を理解しようとすると、どうしても身体や脳の発達を無視することはできないであろう。
身体の発達について少し考えてみることにする。身体の発達にも原理がある。体の発達には上昇的な発達時期と比較的安定的な発達時期がみられる。上昇的な発達時期は乳幼児から青年の時期であろう。その後は身体的な発達は緩やかな負の発達を辿り、最終的には死を迎えることになる。また、発達には順序性というものがある。1つは、上部から下部への発達、例えば、頭部、首、胸、足、足首、また、中心部から末梢部の順序性がある。これは、肩、腕、手首、指先へと発達していく。箸をうまく使えるようになる行為の観察で、この発達過程がよく理解できよう。

第2節 脳と身体の発達
次に脳の発達について若干説明しよう。
脳神経のことをニューロンという。ニューロンが集まって脳という塊になる。1つのニューロンは神経細胞、髄鞘、樹状突起などから構成されている。ニューロンの集合体が脳である。生誕後の脳は発達し、心の発達を支える物理的存在となる。脳がないと心は存在しない。ここでは脳の詳細については述べないが、乳児からの発達過程で、脳のニューロンも変化する。樹状突起の形成の発達について若干説明しよう。樹状突起が伸びていくことが、発達の1つの指標として捉えることができる。樹状突起の伸長の程度は、ピアジェの発達段階と対応すると考えられている。たとえば、ピアジェの発達段階での具体的操作期と形式的操作期では、樹状突起の密度が変化するということを仮説的に説明できる。前操作期の幼児期では樹状突起の密度はさらに貧弱である。

第3節 脳と心の相互作用の基本的枠組(個人システムと社会脳の発達)
最後に「社会脳」という概念について説明しよう。
前回の講義で、「ミラーニューロン」のビデオを視聴した。
人との関係の中で、ミラーニューロンを鍛え、人間は社会性を発達させていく動物である。社会性の発達は、一般には、母子関係から、家族関係、学校環境関係、そして、職場を初めてとす社会関係のなかでなされる。その関係には常に他人が存在する。人生の中で、親、兄弟(姉妹)、友達、先生、同僚、先輩らと自分の脳と彼らとの脳を共有しながら生活している。言い換えると、彼らの脳と自分の脳を共有していると言える。共有することで、自分の脳を形成して生きていく。そこでできた自分の脳は社会脳である。社会脳は心と身体とともに存在する脳である。社会脳は、別の言い方をすれば、環境脳ともいえる。生涯発達心理学では、この社会のという視点で、脳と心の発達を捉えていくことが重要になる。

web課題コメントは締め切りました。

講義資料添付 https://wp.me/a9O0e7-L8