9/3,4 第14回 心と脳の障害と回復

要約

ここでは、心と脳の病気とその回復について、生涯発達の視点から体系的に解説している。本章は看護職が心と脳の状態を理解し、適切な支援につなげる力を養うことを目的としている。


第1節「生涯発達と心の病気」では、心の病は発達段階によって現れ方が異なることが示されている。乳幼児期には行動異常や親子関係の問題、思春期にはうつやひきこもり、成人期ではストレス関連障害や空の巣症候群、高齢期では喪失体験からうつを発症する可能性が指摘される。看護支援には、それぞれの段階に応じた心理的特徴の理解が求められる。
続いて、精神疾患の診断基準としてDSM-5-TRが紹介され、うつ病、不安障害、PTSD、パーソナリティ障害などの代表的な疾患群が解説されている。診断には症状の持続期間や生活機能への影響だけでなく、文化的背景や年齢への配慮が必要とされ、個別性の高いアセスメントが重要である。
心理療法の実際では、認知行動療法(CBT)、精神力動的アプローチ、家族療法、マインドフルネス療法、トラウマインフォームドケアなど、看護実践に応用可能な支援方法が多様に紹介されている。CBTのABCモデルなどは、感情や行動の理解に役立つ視点である。看護職は直接治療を行うわけではないが、傾聴や共感的対応、初期支援の姿勢を通して、心理的回復に貢献できる。
また、心の病の背景には生理的・神経学的な要因があることが示され、HPA軸の過剰な活性化や、セロトニン・ドーパミンなどの神経伝達物質の異常、前頭前野や扁桃体の機能変化が紹介されている。こうした知識は、薬物療法や脳機能への理解にもつながり、包括的な看護を支える基盤となる。


第2節では、認知症を中心とした脳の病気について解説されている。アルツハイマー型認知症、脳血管性認知症、前頭側頭型認知症、レビー小体型認知症などの違い、中核症状と周辺症状(BPSD)の理解が重要である。特に、軽度認知障害(MCI)や高齢者うつ、せん妄との鑑別の必要性が強調されており、初期対応の質がその後のケアを左右する。
パーキンソン病や脳卒中、てんかん、多発性硬化症などの神経疾患についても、運動機能の障害だけでなく、認知や感情面の変化に注目する重要性が述べられる。看護職は、リハビリや生活支援だけでなく、QOLの視点をもって対応する姿勢が求められる。


第3節では、発達段階における心と脳の健康維持の重要性が述べられ、胎児期から老年期までの各時期に応じた支援が提案されている。とくに睡眠・運動・食事・社会的つながり・ストレス対処力などの生活習慣が、心と脳の健康にとって基礎であると強調されている。社会的つながりの維持やレジリエンス(精神的回復力)の育成も重要な視点である。


本章全体を通して、生理・心理・社会的要因を統合的に理解すること、そして看護職が個人の発達段階と背景を踏まえて支援を行うことの重要性が一貫して示されている。心と脳の回復を支えるためには、多職種連携とともに、患者の語りに耳を傾ける姿勢が何よりも大切である。

8/27,28 第13回 発達障害とその神経基盤

要約

発達障害とは、脳の発達に関わる機能の違いに基づいて、行動や認知に特性が表れる状態である。2005年の発達障害者支援法の施行を機に、国内でも行政的に「発達障害」という用語が広まったが、診断にはDSM-5-TRなど国際的な医学基準が用いられる。自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠如・多動症(ADHD)、限局性学習症(SLD)は代表的な神経発達症であり、それぞれ対人関係、注意力、学習能力などに困難を示す。発症は早期であり、成人期まで持続する例も多い。

これらの特性は一様ではなく、個人差や重複(併存)も多く、看護職は診断名のみに頼らず、個々の困りごとや支援ニーズに着目する視点が求められる。また、診断の有無にかかわらず、感覚過敏や行動の変化に柔軟に対応する「合理的配慮」も重要である。たとえば視覚的スケジュールの活用や環境調整などが、本人の安心と安定につながる。

発達障害の理解には、脳の構造や機能に注目した神経科学的な視点も不可欠である。ADHDでは前頭前野と線条体の連携に課題があり、ASDでは扁桃体や島皮質などの社会的情報処理に関わる領域の活動が低下している。SLDでは、言語処理に関わる左側頭葉や角回の活動が低いことが示されている。脳画像研究によって、行動の背景にある神経基盤が可視化されつつあり、それに基づいた支援が可能になっている。

近年では「神経多様性(neurodiversity)」という考え方が注目されており、脳の働き方の違いを個性として尊重する視点が支援の基本となりつつある。感覚の敏感さや行動の独特さを「問題」と見るのではなく、「脳の特性」として理解することで、共感的かつ実効的な支援が可能になる。

さらに、成人期に発達障害と診断される事例も増えている。その背景には、ASDに特有の「カモフラージュ(camouflaging)」行動があり、自身の特性を隠して適応しようとする努力が精神的負荷となる。診断は自己理解の契機になる一方で、レッテル化のリスクもあるため、看護職には当事者の語りに耳を傾ける姿勢が求められる。

ADHDとASDの区別は看護現場で重要である。ADHDは注意の散漫や衝動性、ASDは対人関係の困難やこだわり行動が中心であり、行動の背景にある脳機能の特性を理解することで、適切な支援が可能となる。ADHDにはスケジュール管理や視覚的補助、ASDには明確な言語表現や環境の予測可能性の確保が有効である。看護職は、行動だけでなくその背景にある神経の仕組みに目を向け、本人の強みを生かした支援を構築することが求められる。

8/20,21 第12回 老年期の心と脳の発達②(精神的健康と社会的関係)

講義要約

老年期は人生の最終段階であり、身体的・心理的・社会的な変化が一挙に訪れる時期である。特に退職、配偶者との死別、身体機能の低下などによって、「役割の喪失」や「孤独感」が強まり、精神的健康に大きな影響を与える。孤独は抑うつや睡眠障害、認知症のリスクを高める要因となる。看護職は、高齢者が自尊心や存在意義を保てるよう、趣味活動や地域参加を勧めることが望まれる。退職後の活動支援や傾聴も、精神的安定の重要な鍵となる。
精神的幸福感(subjective well-being)を高めるには、家族・友人・地域との「つながり」が重要であり、情緒的・道具的な社会的サポートが心理的安定を支える。Fratiglioniら(2004)の研究では、社会的関与が活発な高齢者は認知機能の維持が良好であるとされており、孤立を防ぐ支援がQOL向上の鍵である。定期的な訪問、話し相手、電話や手紙でのやりとりといった日常的な交流も効果的である。
うつ病は高齢者に多く見られるが、身体的症状に紛れて発見が遅れることがある。仮性認知症との鑑別には専門的な観察が必要であり、日々の表情や言動から心の不調を見抜く力が求められる。さらに、心理教育や運動支援、傾聴などの非薬物的介入は、安全かつ効果的な支援手段である。看護職の細やかな観察力と共感的な態度が重要である。
老年期における「役割喪失と再構築」には、選択・最適化・補償(SOCモデル)が有効である。たとえば社交ダンスをやめた高齢者が、友人との語らいを通して社会的交流を維持するなど、失われた機能を補いながら新たな活動を模索することが可能である。これは精神的健康の維持にも寄与する。高齢者が「できること」に注目し、自信を持てるような支援が看護に求められる。
ソーシャル・キャピタル(信頼・互酬性・ネットワーク)は、地域の中で支え合う仕組みとして注目されている。特に単身高齢者の増加に伴い、地域資源や人的つながりの重要性はますます高まっている。看護職は地域包括ケアの視点から、社会的なつながりを促進する役割を担うことが求められる。高齢者が安心して「人と関わる場」に出向けるような環境整備が大切である。
また、老年期は人生を振り返り、「統合」へ向かう時期でもある。ライフレビューを通じて自己の過去を再評価し、人生に意味づけを行うことは、精神的成熟につながる。フランクル(1963)の「意味への意志」や、セリグマン(2011)のPERMAモデルに見られるように、人生の充実には「意味」「関係性」「貢献感」が不可欠である。
老年期の精神的健康を支えるためには、看護職が高齢者の語りに耳を傾け、過去・現在・未来の自己理解を支援しながら、その人らしい意味ある生活を共に築いていく姿勢が大切である。語りや表情の背景にある価値観を尊重しながら関わることが、精神的成熟と幸福感を支える看護実践の基盤となる。
そのためには、制度的支援や多職種連携も重要であり、医療・福祉・地域が連携して高齢者の生活を支える体制の整備が求められる。高齢者一人ひとりの声に耳を傾け、その人の価値や生き方を尊重した支援を継続することが、豊かな老後の実現につながるのである。
看護職には、心身の健康だけでなく「人生の物語」を支える視点が必要であり、老年期を肯定的に捉える関わりが求められている。高齢者の生活の一日一日が意味に満ちた時間となるよう、温かく寄り添う姿勢こそが支援の本質である。

7/16,17 第11回 老年期の心と脳の発達の特徴①(認知機能の変化)

要約

高齢期には、注意力や記憶力、思考のスピードといった認知機能が自然に変化していく。特に持続的注意・選択的注意・分割注意のいずれも年齢とともに低下し、複数の刺激への同時対応が難しくなる。記憶については、体験の記憶であるエピソード記憶は加齢により大きく低下する一方、語彙や知識などの意味記憶は比較的保たれる。さらに、情報を一時的に記憶し操作するワーキングメモリも加齢とともに容量が減少し、複雑な指示を理解しにくくなる傾向がある。また、情報処理速度も緩やかに低下するため、高齢者には十分な反応時間の確保が重要となる。これらの認知変化を理解し、支援において適切な環境調整やコミュニケーションの工夫を行うことが、尊厳ある看護ケアにつながる。

感情面においては、高齢者は加齢に伴い、ネガティブな感情が減少し、感情がより安定する傾向がある。これは性格の変化ではなく、扁桃体や前頭前野など脳機能の変化や神経伝達物質の減少が関与している。また、ポジティブな感情記憶を優先する「感情記憶の選択性」もみられ、感情と記憶の関連性が注目されている。さらに、高齢者は長年の経験によりストレス耐性が高まり、共感力や対人関係における感情調整力も向上するが、脳機能の変化により共感的理解が難しくなる側面もある。看護においては、高齢者の感情表現の背景にある神経的・心理的特徴を理解し、非言語的サインを丁寧に読み取る姿勢が求められる。感情的交流を大切にしたケアは、高齢者のQOL向上に大きく寄与する。

社会性の面では、高齢期には限られた時間を意識することで、感情的に満たされる人間関係を優先する傾向が強まる。これは「ソシオエモーショナル・セレクティビティ理論(社会情動的選択性理論)注1」により説明され、意味ある関係の選択が感情の安定に寄与する。一方、社会的孤立や孤独感は心身の健康に悪影響を及ぼし、うつや認知症のリスクを高める。ここで重要なのは、孤独と孤独感は異なるという点である。孤独は物理的に一人である状態を指すのに対し、孤独感は主観的な感情体験であり、周囲に人がいても感じ得る。社会的交流は脳の前頭前野や海馬を活性化させ、特に世代間交流は心理的充足と認知機能維持に有効である。看護者は、高齢者の非言語的サインを丁寧に読み取り、共感的に関わることが求められる。社会的つながりの支援は、尊厳ある老いと生活の質向上に直結する重要な看護実践である。

注1)人は人生の残り時間を意識するようになると、知識獲得よりも感情的な満足を重視するようになるという考え方

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6/25,26 第10回 中年期の心と脳の発達の特徴

要約

中年期は、心と身体の両面で大きな変化が起こる時期である。この時期、多くの人が過去の人生を見つめ直し、これからの生き方を再評価するようになる。こうした内省は「中年期危機」として心理的葛藤を伴うこともあるが、自己理解を深め、心理的に成熟するための重要な機会でもある。
身体的には、更年期の症状や老化の自覚が現れ、家庭では子どもの独立や親の介護といった役割変化が生じ、職場では昇進の限界や退職準備などの変化が同時に訪れる。これらの多重の変化は、個人の自己価値感や生きがいの再構築を促すきっかけとなる。また、空の巣症候群や熟年離婚、高齢の親の介護といった家族内の出来事は心理的負担を高める一方で、夫婦関係の再構築や生活の見直しにもつながり得る。
このような中年期の人々は、地域や職場での役割を再評価しながら、次世代に知識や経験を引き継ぐ「世代継承性」を発揮することが求められる。社会とのつながりを維持し、貢献することは、自尊感情や精神的安定の維持にも効果がある。
脳においては、前頭前野や海馬などの部位で体積の減少が進み、記憶や注意、感情のコントロール機能に変化が現れる。また、ストレスの蓄積や睡眠の質の低下は、これらの脳機能をさらに低下させる。慢性的なストレスは、コルチゾールというホルモンの分泌異常を引き起こし、脳の構造にも悪影響を及ぼす。加えて、アルコール摂取や不十分な睡眠も、感情の制御や記憶力に悪影響を及ぼす要因となる。
これらの背景を理解することは、看護実践において極めて重要である。たとえば、患者が情緒不安定な反応を示した場合、それを単なる性格と捉えるのではなく、脳機能の変化やストレス応答との関係から理解する姿勢が求められる。
さらに、愛着理論の視点も重要である。中年期においても、幼少期の愛着経験が現在の対人関係や感情調整に影響を与えていることがある。不安型や回避型といった愛着スタイルは、援助の受け入れ方や看護師との関係にも反映されやすいため、患者の背景を理解しながら関係を築く工夫が必要である。同時に、看護師自身の愛着スタイルも意識し、自己内省を通じて柔軟で共感的なケアを目指すことが望まれる。
このように、中年期は身体的・心理的・社会的な変化が交錯する発達段階であり、看護においては個々の人生背景、脳機能の変化、社会関係などを統合的に理解する視点が求められる。

(資料)中年期ストレスの生理学的メカニズムの理解 https://wp.me/a9O0e7-OH  

6/18,19 第9回 前成人期と成人期の心と脳の発達の特徴

現代社会では、進学や就職などの多様な選択肢があるため、20歳代後半までを青年期とみなす傾向がある。この時期は自我同一性の確立、すなわち「自分らしさ」の模索が続く。一方、30歳代に入ると、配偶者や親密な他者との関係性を深めながら、家庭人や社会人としての役割を担うことが求められ、第2のアイデンティティが形成されていく。このような心理的発達は、社会的責任の受容や人間関係の成熟と密接に関係している。さらに40歳に近づくと、次世代への貢献意識が高まる一方、停滞感を抱く者もおり、いわば人生を再評価する時期となる。
成人期前期は、キャリアと家庭の両立が求められる時期である。「ライフ・キャリア・レインボー」というモデルでは、人生における複数の役割を重ねながら生きる様子が視覚化される。看護職のように不規則勤務を伴う職業では、家族の協力や職場制度がワークライフバランスの確保に重要であり、自身の価値観に基づいたキャリア選択が重要となる。
この時期、脳の前頭前野が成熟し、計画性や感情の制御、自律的な学習が促進される。アンドラゴジー理論では、成人は自己主導的に学ぶ傾向があり、実際に30歳代では主体的な学習が活性化する。また、神経可塑性により、新しい知識と過去の経験とを統合する学びが可能となる。扁桃体や報酬系の変化によって、外的な報酬よりも内発的な動機が強まり、「意味ある学び」へとつながる。
さらに、大脳半球の機能的な左右差が安定し、性による脳機能の使い方の違いも明らかになってくる。たとえば、女性は言語や感情認知において左右両方の脳を使う傾向があり、対人援助に活かされることが多い。このような性差を多様なスタイルとして理解する姿勢が大切である。
また、成人期は性的アイデンティティが再確認される時期でもある。性的指向や性自認の多様性に理解を深めることは、看護師として患者の尊厳を守るうえで不可欠である。LGBTQ+の人々への配慮や正確な知識は、偏見や無理解を避けるために必要である。特に成人期は、恋愛、妊娠、家庭形成などに直面する時期であり、看護教育においても、性の多様性を尊重する態度を育むことが求められる。

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6/11, 12 第8回 青年期後期の心と脳の発達の特徴

青年期後期(20〜30歳頃)は、心と脳が大きく成長し、自立と社会的関係の成熟を目指す重要な時期である。特にこの時期には、心理的な自立と社会的な役割確立が求められる。エリクソンの理論では「親密性 vs 孤立」という課題があり、思春期に確立された自我同一性を基に、社会の中で自らのあり方を模索することが求められる。マルシアは、自我同一性の発達を4つのステータスに分類し、青年期後期では「達成」型が多く、自らの価値観に基づき職業や人生の方向性を定める力が育まれる。

この過程では、自己決定が増え、その選択に対する責任感が求められる。自己決定理論では、自分の内面の動機に従って行動できることが重要とされる。また、理想と現実のギャップに直面することも多く、困難に対処するためには自己効力感が支えになる。自己効力感が高いと、失敗しても前向きに挑戦を続けることができる。看護学生にとっても、専門性と自分らしい生き方を結びつけることが重要な課題となる。

さらに、青年期後期は人間関係が深まる時期でもある。表面的な付き合いから、互いを尊重し合う深い関係へと移行し、恋愛や友情を通じて親密性が発達する。感情調整能力や対人スキルが求められ、異なる価値観に触れることで視野が広がる。このような経験は、看護現場で患者と良好な信頼関係を築く力にもつながる。

自己探求もこの時期の重要なテーマであり、自己効力感を高めながら現実と理想のすり合わせを行う。これにより、より柔軟で現実的な自己像が形成される。看護学生も、患者との関わりを通して自らの看護観を深め、援助者としての自己を育てていく。

脳の発達に目を向けると、前頭前野の成熟が進み、感情や行動をコントロールする力が向上する。自己制御能力が発達し、目標に向かって行動できる力が強まる。また、社会的経験を積むことで、感情のコントロールや柔軟な思考力が養われる。これらは看護師として必要な対人援助スキルの基盤となる。

さらに、青年期後期は「達成動機」と「親和動機」が強まる時期でもある。達成動機は「成功したい」という願望を支え、学業や仕事への意欲を高める。一方、親和動機は「人とつながりたい」という欲求に基づき、良好な人間関係を築こうとする力になる。また、SNS利用が自己イメージに与える影響にも注意が必要であり、社会的比較による自己肯定感の低下リスクが指摘されている。青年期後期のメンタルヘルス支援においては、非言語的サインへの配慮や安心感の提供が信頼関係構築に寄与し、早期介入が予後を左右する。

このように、青年期後期は心と脳が大きく成長し、自己理解と社会的スキルを深めると同時に、揺れながらも自己を成長させる時期である。看護学生にとっても専門性と生き方を統合し、自らの看護観を確立していく過程として極めて重要な時期である。

web課題締め切りました。
親和動機と達成動機」の観点から、自分の結果をどう解釈するか。

6/4,5 第7回 思春期(青年期前期)と青年期中期の心と脳の発達の特徴

思春期は身体的・心理的変化が著しい発達段階である。第二次性徴による急激な身体的変化は、自己意識の高まりと結びつき、特に女子では外見への関心が増し、自己評価に影響を及ぼす。男子でも精通や声変わりが自信の源となる一方、他者との比較により劣等感を抱くことがある。この時期、家庭の情緒的支援が心身の健全な発達に寄与し、看護職は子どもたちの変化を理解し支援することが求められる。

思春期は心理的自立の始まりでもあり、親からの精神的な自立を目指しつつ、経済的には依存する矛盾を抱える。多くの青年は親や教師に反抗しつつ自己確立を模索する。家庭内での対応はこの自立過程に大きく影響し、支援者は共感的理解をもって関わる必要がある。レヴィンが提唱した「境界人」という概念は、思春期の不安定な立場を象徴しており、自己像形成の難しさを示す。

アイデンティティの確立を求めて、人生を模索していく過程が思春期の中心的特徴であろう。家庭、学校、SNSなど多様な経験がその形成に影響する。家庭の安定した愛情が自己肯定感を支え、親の過度な期待は混乱を招くリスクとなる。思春期特有の感情の揺れは「疾風怒濤の時代」とも呼ばれ、ホルモン変化や前頭前野の未成熟により情緒が不安定になりやすい。看護職はこの揺れを自己形成過程の一部と受け止め、青年の語りに共感し支援する姿勢が求められる。

脳の発達も思春期に大きく進展する。自己制御能力は未成熟であり、報酬系の感受性が高まる一方、抑制を司る前頭前野の発達は遅れる。結果として、短期的快楽への傾倒や衝動的行動が増加する。仲間の存在も自己制御を乱す要因となり、リスク行動を助長する可能性がある。睡眠リズムの変化も自己制御低下に影響し、生活習慣への支援が重要である。

前頭前野は計画性や抑制機能を司り、成熟には20代半ばまでかかる。思春期では情動処理を担う扁桃体が先行して活性化し、感情的反応が優位になりやすい。情動コントロールの未成熟さは親子間の衝突や情緒の不安定さと関連し、看護支援ではその背景を理解することが重要である。

扁桃体は怒りや恐怖などの情動を迅速に処理し、思春期には特に活性化しやすい。社会的評価への過敏さは扁桃体活動と関連し、不安や羞恥心の高まり、社会的回避を招きやすい。さらに情動的記憶の強化により、ネガティブな体験が長期的影響を及ぼすリスクがある。性ホルモンの影響も情動反応に関与し、男女で異なる傾向が見られる。

リスク行動は報酬系の過敏性と前頭前野の未成熟に起因し、思春期に特有の現象である。報酬系の感受性の高さは依存症リスクとも関連し、仲間からの評価欲求も行動選択に影響を与える。看護の場面ではリスク行動を単なる問題視せず、発達的背景を踏まえた支援が求められる。

親子関係は思春期に質的変化を迎え、心理的距離が再編される。オキシトシンが親子間の情動的絆を支え、家庭の安定はストレス応答系の調整に寄与する。家庭内の不安定さはHPA軸の過剰活性を招き、慢性的なストレス反応に繋がるリスクがある。

友人関係は思春期において重要性を増し、仲間からの承認は強い動機付けとなる。同調行動は社会的認知機能の発達と関連し、共感能力の高まりとともにピア関係の質が向上する。仲間からの拒絶は強い心理的痛みをもたらし、前帯状皮質の活性化と関連する。共感の神経基盤であるミラーニューロン系もこの時期に発達し、対人関係における情動的つながりを深める。

SNSの普及により、思春期の対人関係と脳機能への影響が拡大している。SNS上での社会的推論は前内側前頭前野の活動を促すが、対面的経験の減少が心の理論の発達を妨げる可能性もある。

看護支援では、思春期の患者に対して共感、尊重、信頼を基盤とした関係構築が不可欠である。ラポール形成は脳内報酬系を活性化させ、心理的安定を促進する。共感的対応は自己開示を促し、安心できる環境を提供する。思春期の情動反応には扁桃体と前頭前野の未成熟が関与しており、看護師はこの背景を理解し、落ち着いた支援を行うことが求められる。ストレスを心理学と生理学から理解する 

思春期の身体(ホルモン分泌のメカニズムと思春期のストレス 

今日の講義(思春期(青年期前期)と青年期中期の心と脳の発達)で一番勉強になってた内容は、どんなことでしょうか

5/28,29 第6回 児童期の心と脳の発達の特徴

児童期は、子どもの心と脳が大きく発達する時期であり、とくに認知的な面での変化が顕著である。ピアジェの理論では、この時期は「具体的操作期」とされ、自分の視点だけでなく他者の視点を理解する「脱中心化」、形が変わっても量は同じだと気づく「保存の概念」、原因と結果を論理的に考える力などが育つ。このように、より柔軟で客観的な思考が可能になるのである。
また、記憶や注意の力も著しく発達する。情報を一時的に覚えて使う「ワーキングメモリ」の容量が増え、繰り返し覚える「リハーサル」や、意味のあるグループに分ける「カテゴリー化」といった記憶の工夫も、自分で使えるようになる。そして「メタ認知」、すなわち自分の学び方や考え方を振り返って調整する力も育ち、それが学習の質を高める要因となる。
教育現場では、こうした発達に応じて、図や絵を使ったり、ロールプレイなどの工夫が有効である。また、「スキャフォルディング」と呼ばれる支援方法では、大人が少しだけ手を貸すことで、子どもが一人ではできない課題も達成できるようになる。この支援は、子どものやる気を引き出すことにもつながる。
脳の発達においては、前頭前野の成熟が進み、「実行機能」と呼ばれる抑制、注意の切り替え、情報の更新と保持の力が高まる。授業中に手を挙げるまで待つ行動や、先生の指示を覚えて実行する行動には、この実行機能が関わっている。
また、記憶に関係する海馬も発達し、学びや体験の積み重ねが神経のつながりを強くする。しかし、ストレスや不安が続くと海馬の働きが低下し、記憶や集中に悪影響を与える。そのため、安心して過ごせる環境づくりが重要である。
この時期の子どもは、仲間との関わりを通じて自分の役割や立場を理解し始める。他者との比較を通して「できること」「できないこと」を自覚し、現実的な自己評価ができるようになる。こうした自己理解の深まりは、自尊感情の安定にもつながる。教師や保護者が努力を認めることで、さらに自己肯定感が育まれる。
また、コールバーグの理論にある「慣習的水準」のように、社会のルールや周囲の人の気持ちに基づいて、善悪の判断を行うようになる。
一方、ADHD(注意欠如・多動症)やLD(学習障害)といった発達課題をもつ子どももいる。これらは認知や行動のコントロールの違いによるものであり、「努力不足」と決めつけるのではなく、個別に応じた支援が求められる。たとえば、図やイラストによる説明、短く分けた課題、見通しを持てるような声かけが効果的である。
このように、児童期は「考える力」「感じる力」「人と関わる力」、そして「脳の働き」が互いに関わり合いながら発達する大切な時期である。発達心理学と脳科学の知見をふまえた支援は、教育や看護の現場において子どもの成長を支えるための重要な視点となる。

注) スキャフォルディング(Scaffolding)とは学習や教育の場面で使われるサポートの方法です。簡単に言うと、学習者が自分で問題を解決できるようになるまで、一時的に支援を提供することを指します。教育の場面では、教師が生徒にヒントを与えたり、例を示したりすることで、難しい課題を少しずつ理解できるようにします。そして、生徒が自分でできるようになったら、その支援を減らしていくのがポイントです。この方法は、特に言語学習や問題解決のスキルを伸ばすのに役立ちます。学習者が自信を持って次のステップへ進めるようにするための「足場作り」と考える。

脳の構造と機能について、まず理解しておく図 https://wp.me/a9O0e7-Nb

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5/21,22 第5回 幼児期の心と脳の発達の特徴

幼児期は言語と認知の著しい発達の時期であり、脳の可塑性が高く、外部からの刺激が発達に大きく影響する。ピアジェはこの時期を「前操作期」と位置づけ、自己中心的な思考や象徴的な空想遊びが見られるとした。ヴィゴツキーは、他者との対話が思考を育てるとし、独り言のような「私的発話」が行動の調整に役立つとした。語彙の爆発的増加や複雑な文の使用は、周囲の言語環境の影響を強く受け、特に会話の質が重要である。こうした言語発達は「心の理論」や他者理解の土台となり、共感や社会性の育成にも関わる。

また、自己制御の力もこの時期に育まれ、感情や欲求のコントロール、ルールに従う行動などが発達していく。この能力には「実行機能」が関係し、抑制、ワーキングメモリ、柔軟な行動切替が求められる。ふり・ごっこ遊びはこの機能を高める手段とされる。育児者の応答的な関わり、文化的価値観、教育カリキュラムなど、自己制御の発達には多様な環境要因が相互に関与している。

脳の発達面では、言語を担う左脳のブローカ野とウェルニッケ野の成熟が重要である。特に6〜12か月の間に母語音に特化した脳の反応が見られ、「臨界期」以降の言語習得は難しくなる。脳の神経可塑性により、経験によって神経回路が強化されるため、豊かな言語環境は発達を促進する。一方、発達障害や聴覚障害の子どもでは、脳の働き方に違いが見られ、早期の支援と理解が必要である。

看護の現場では、こうした発達の兆候を観察し、保護者との対話や支援機関への橋渡しを行う役割が重要である。絵本の読み聞かせや語りかけは言語発達だけでなく脳の構造的成長にも寄与する。看護師は、医療と教育、家庭と地域をつなぐ存在として、子どもの発達に多角的に関わることが求められる。

資料 人間は、脳の何処を使ってことばを聞いたり、話したりしているのか
https://www.neuropsychology.jp/wp-content/uploads/2025/05/Broca-Wrenicke-field.jpg

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