5/21,22 第5回 幼児期の心と脳の発達の特徴

幼児期は言語と認知の著しい発達の時期であり、脳の可塑性が高く、外部からの刺激が発達に大きく影響する。ピアジェはこの時期を「前操作期」と位置づけ、自己中心的な思考や象徴的な空想遊びが見られるとした。ヴィゴツキーは、他者との対話が思考を育てるとし、独り言のような「私的発話」が行動の調整に役立つとした。語彙の爆発的増加や複雑な文の使用は、周囲の言語環境の影響を強く受け、特に会話の質が重要である。こうした言語発達は「心の理論」や他者理解の土台となり、共感や社会性の育成にも関わる。

また、自己制御の力もこの時期に育まれ、感情や欲求のコントロール、ルールに従う行動などが発達していく。この能力には「実行機能」が関係し、抑制、ワーキングメモリ、柔軟な行動切替が求められる。ふり・ごっこ遊びはこの機能を高める手段とされる。育児者の応答的な関わり、文化的価値観、教育カリキュラムなど、自己制御の発達には多様な環境要因が相互に関与している。

脳の発達面では、言語を担う左脳のブローカ野とウェルニッケ野の成熟が重要である。特に6〜12か月の間に母語音に特化した脳の反応が見られ、「臨界期」以降の言語習得は難しくなる。脳の神経可塑性により、経験によって神経回路が強化されるため、豊かな言語環境は発達を促進する。一方、発達障害や聴覚障害の子どもでは、脳の働き方に違いが見られ、早期の支援と理解が必要である。

看護の現場では、こうした発達の兆候を観察し、保護者との対話や支援機関への橋渡しを行う役割が重要である。絵本の読み聞かせや語りかけは言語発達だけでなく脳の構造的成長にも寄与する。看護師は、医療と教育、家庭と地域をつなぐ存在として、子どもの発達に多角的に関わることが求められる。

資料 人間は、脳の何処を使ってことばを聞いたり、話したりしているのか
https://www.neuropsychology.jp/wp-content/uploads/2025/05/Broca-Wrenicke-field.jpg

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