現代社会では、進学や就職などの多様な選択肢があるため、20歳代後半までを青年期とみなす傾向がある。この時期は自我同一性の確立、すなわち「自分らしさ」の模索が続く。一方、30歳代に入ると、配偶者や親密な他者との関係性を深めながら、家庭人や社会人としての役割を担うことが求められ、第2のアイデンティティが形成されていく。このような心理的発達は、社会的責任の受容や人間関係の成熟と密接に関係している。さらに40歳に近づくと、次世代への貢献意識が高まる一方、停滞感を抱く者もおり、いわば人生を再評価する時期となる。
成人期前期は、キャリアと家庭の両立が求められる時期である。「ライフ・キャリア・レインボー」というモデルでは、人生における複数の役割を重ねながら生きる様子が視覚化される。看護職のように不規則勤務を伴う職業では、家族の協力や職場制度がワークライフバランスの確保に重要であり、自身の価値観に基づいたキャリア選択が重要となる。
この時期、脳の前頭前野が成熟し、計画性や感情の制御、自律的な学習が促進される。アンドラゴジー理論では、成人は自己主導的に学ぶ傾向があり、実際に30歳代では主体的な学習が活性化する。また、神経可塑性により、新しい知識と過去の経験とを統合する学びが可能となる。扁桃体や報酬系の変化によって、外的な報酬よりも内発的な動機が強まり、「意味ある学び」へとつながる。
さらに、大脳半球の機能的な左右差が安定し、性による脳機能の使い方の違いも明らかになってくる。たとえば、女性は言語や感情認知において左右両方の脳を使う傾向があり、対人援助に活かされることが多い。このような性差を多様なスタイルとして理解する姿勢が大切である。
また、成人期は性的アイデンティティが再確認される時期でもある。性的指向や性自認の多様性に理解を深めることは、看護師として患者の尊厳を守るうえで不可欠である。LGBTQ+の人々への配慮や正確な知識は、偏見や無理解を避けるために必要である。特に成人期は、恋愛、妊娠、家庭形成などに直面する時期であり、看護教育においても、性の多様性を尊重する態度を育むことが求められる。
6/11, 12 第8回 青年期後期の心と脳の発達の特徴
青年期後期(20〜30歳頃)は、心と脳が大きく成長し、自立と社会的関係の成熟を目指す重要な時期である。特にこの時期には、心理的な自立と社会的な役割確立が求められる。エリクソンの理論では「親密性 vs 孤立」という課題があり、思春期に確立された自我同一性を基に、社会の中で自らのあり方を模索することが求められる。マルシアは、自我同一性の発達を4つのステータスに分類し、青年期後期では「達成」型が多く、自らの価値観に基づき職業や人生の方向性を定める力が育まれる。
この過程では、自己決定が増え、その選択に対する責任感が求められる。自己決定理論では、自分の内面の動機に従って行動できることが重要とされる。また、理想と現実のギャップに直面することも多く、困難に対処するためには自己効力感が支えになる。自己効力感が高いと、失敗しても前向きに挑戦を続けることができる。看護学生にとっても、専門性と自分らしい生き方を結びつけることが重要な課題となる。
さらに、青年期後期は人間関係が深まる時期でもある。表面的な付き合いから、互いを尊重し合う深い関係へと移行し、恋愛や友情を通じて親密性が発達する。感情調整能力や対人スキルが求められ、異なる価値観に触れることで視野が広がる。このような経験は、看護現場で患者と良好な信頼関係を築く力にもつながる。
自己探求もこの時期の重要なテーマであり、自己効力感を高めながら現実と理想のすり合わせを行う。これにより、より柔軟で現実的な自己像が形成される。看護学生も、患者との関わりを通して自らの看護観を深め、援助者としての自己を育てていく。
脳の発達に目を向けると、前頭前野の成熟が進み、感情や行動をコントロールする力が向上する。自己制御能力が発達し、目標に向かって行動できる力が強まる。また、社会的経験を積むことで、感情のコントロールや柔軟な思考力が養われる。これらは看護師として必要な対人援助スキルの基盤となる。
さらに、青年期後期は「達成動機」と「親和動機」が強まる時期でもある。達成動機は「成功したい」という願望を支え、学業や仕事への意欲を高める。一方、親和動機は「人とつながりたい」という欲求に基づき、良好な人間関係を築こうとする力になる。また、SNS利用が自己イメージに与える影響にも注意が必要であり、社会的比較による自己肯定感の低下リスクが指摘されている。青年期後期のメンタルヘルス支援においては、非言語的サインへの配慮や安心感の提供が信頼関係構築に寄与し、早期介入が予後を左右する。
このように、青年期後期は心と脳が大きく成長し、自己理解と社会的スキルを深めると同時に、揺れながらも自己を成長させる時期である。看護学生にとっても専門性と生き方を統合し、自らの看護観を確立していく過程として極めて重要な時期である。
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親和動機と達成動機」の観点から、自分の結果をどう解釈するか。
6/4,5 第7回 思春期(青年期前期)と青年期中期の心と脳の発達の特徴
思春期は身体的・心理的変化が著しい発達段階である。第二次性徴による急激な身体的変化は、自己意識の高まりと結びつき、特に女子では外見への関心が増し、自己評価に影響を及ぼす。男子でも精通や声変わりが自信の源となる一方、他者との比較により劣等感を抱くことがある。この時期、家庭の情緒的支援が心身の健全な発達に寄与し、看護職は子どもたちの変化を理解し支援することが求められる。
思春期は心理的自立の始まりでもあり、親からの精神的な自立を目指しつつ、経済的には依存する矛盾を抱える。多くの青年は親や教師に反抗しつつ自己確立を模索する。家庭内での対応はこの自立過程に大きく影響し、支援者は共感的理解をもって関わる必要がある。レヴィンが提唱した「境界人」という概念は、思春期の不安定な立場を象徴しており、自己像形成の難しさを示す。
アイデンティティの確立を求めて、人生を模索していく過程が思春期の中心的特徴であろう。家庭、学校、SNSなど多様な経験がその形成に影響する。家庭の安定した愛情が自己肯定感を支え、親の過度な期待は混乱を招くリスクとなる。思春期特有の感情の揺れは「疾風怒濤の時代」とも呼ばれ、ホルモン変化や前頭前野の未成熟により情緒が不安定になりやすい。看護職はこの揺れを自己形成過程の一部と受け止め、青年の語りに共感し支援する姿勢が求められる。
脳の発達も思春期に大きく進展する。自己制御能力は未成熟であり、報酬系の感受性が高まる一方、抑制を司る前頭前野の発達は遅れる。結果として、短期的快楽への傾倒や衝動的行動が増加する。仲間の存在も自己制御を乱す要因となり、リスク行動を助長する可能性がある。睡眠リズムの変化も自己制御低下に影響し、生活習慣への支援が重要である。
前頭前野は計画性や抑制機能を司り、成熟には20代半ばまでかかる。思春期では情動処理を担う扁桃体が先行して活性化し、感情的反応が優位になりやすい。情動コントロールの未成熟さは親子間の衝突や情緒の不安定さと関連し、看護支援ではその背景を理解することが重要である。
扁桃体は怒りや恐怖などの情動を迅速に処理し、思春期には特に活性化しやすい。社会的評価への過敏さは扁桃体活動と関連し、不安や羞恥心の高まり、社会的回避を招きやすい。さらに情動的記憶の強化により、ネガティブな体験が長期的影響を及ぼすリスクがある。性ホルモンの影響も情動反応に関与し、男女で異なる傾向が見られる。
リスク行動は報酬系の過敏性と前頭前野の未成熟に起因し、思春期に特有の現象である。報酬系の感受性の高さは依存症リスクとも関連し、仲間からの評価欲求も行動選択に影響を与える。看護の場面ではリスク行動を単なる問題視せず、発達的背景を踏まえた支援が求められる。
親子関係は思春期に質的変化を迎え、心理的距離が再編される。オキシトシンが親子間の情動的絆を支え、家庭の安定はストレス応答系の調整に寄与する。家庭内の不安定さはHPA軸の過剰活性を招き、慢性的なストレス反応に繋がるリスクがある。
友人関係は思春期において重要性を増し、仲間からの承認は強い動機付けとなる。同調行動は社会的認知機能の発達と関連し、共感能力の高まりとともにピア関係の質が向上する。仲間からの拒絶は強い心理的痛みをもたらし、前帯状皮質の活性化と関連する。共感の神経基盤であるミラーニューロン系もこの時期に発達し、対人関係における情動的つながりを深める。
SNSの普及により、思春期の対人関係と脳機能への影響が拡大している。SNS上での社会的推論は前内側前頭前野の活動を促すが、対面的経験の減少が心の理論の発達を妨げる可能性もある。
看護支援では、思春期の患者に対して共感、尊重、信頼を基盤とした関係構築が不可欠である。ラポール形成は脳内報酬系を活性化させ、心理的安定を促進する。共感的対応は自己開示を促し、安心できる環境を提供する。思春期の情動反応には扁桃体と前頭前野の未成熟が関与しており、看護師はこの背景を理解し、落ち着いた支援を行うことが求められる。
ストレスを心理学と生理学から理解する https://www.neuropsychology.jp/wp-content/uploads/2025/06/20250603_What-is-Stress.pdf
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今日の講義(思春期(青年期前期)と青年期中期の心と脳の発達)で一番勉強になってた内容は、どんなことでしょうか
5/28,29 第6回 児童期の心と脳の発達の特徴
児童期は、子どもの心と脳が大きく発達する時期であり、とくに認知的な面での変化が顕著である。ピアジェの理論では、この時期は「具体的操作期」とされ、自分の視点だけでなく他者の視点を理解する「脱中心化」、形が変わっても量は同じだと気づく「保存の概念」、原因と結果を論理的に考える力などが育つ。このように、より柔軟で客観的な思考が可能になるのである。
また、記憶や注意の力も著しく発達する。情報を一時的に覚えて使う「ワーキングメモリ」の容量が増え、繰り返し覚える「リハーサル」や、意味のあるグループに分ける「カテゴリー化」といった記憶の工夫も、自分で使えるようになる。そして「メタ認知」、すなわち自分の学び方や考え方を振り返って調整する力も育ち、それが学習の質を高める要因となる。
教育現場では、こうした発達に応じて、図や絵を使ったり、ロールプレイなどの工夫が有効である。また、「スキャフォルディング」と呼ばれる支援方法では、大人が少しだけ手を貸すことで、子どもが一人ではできない課題も達成できるようになる。この支援は、子どものやる気を引き出すことにもつながる。
脳の発達においては、前頭前野の成熟が進み、「実行機能」と呼ばれる抑制、注意の切り替え、情報の更新と保持の力が高まる。授業中に手を挙げるまで待つ行動や、先生の指示を覚えて実行する行動には、この実行機能が関わっている。
また、記憶に関係する海馬も発達し、学びや体験の積み重ねが神経のつながりを強くする。しかし、ストレスや不安が続くと海馬の働きが低下し、記憶や集中に悪影響を与える。そのため、安心して過ごせる環境づくりが重要である。
この時期の子どもは、仲間との関わりを通じて自分の役割や立場を理解し始める。他者との比較を通して「できること」「できないこと」を自覚し、現実的な自己評価ができるようになる。こうした自己理解の深まりは、自尊感情の安定にもつながる。教師や保護者が努力を認めることで、さらに自己肯定感が育まれる。
また、コールバーグの理論にある「慣習的水準」のように、社会のルールや周囲の人の気持ちに基づいて、善悪の判断を行うようになる。
一方、ADHD(注意欠如・多動症)やLD(学習障害)といった発達課題をもつ子どももいる。これらは認知や行動のコントロールの違いによるものであり、「努力不足」と決めつけるのではなく、個別に応じた支援が求められる。たとえば、図やイラストによる説明、短く分けた課題、見通しを持てるような声かけが効果的である。
このように、児童期は「考える力」「感じる力」「人と関わる力」、そして「脳の働き」が互いに関わり合いながら発達する大切な時期である。発達心理学と脳科学の知見をふまえた支援は、教育や看護の現場において子どもの成長を支えるための重要な視点となる。
注) スキャフォルディング(Scaffolding)とは学習や教育の場面で使われるサポートの方法です。簡単に言うと、学習者が自分で問題を解決できるようになるまで、一時的に支援を提供することを指します。教育の場面では、教師が生徒にヒントを与えたり、例を示したりすることで、難しい課題を少しずつ理解できるようにします。そして、生徒が自分でできるようになったら、その支援を減らしていくのがポイントです。この方法は、特に言語学習や問題解決のスキルを伸ばすのに役立ちます。学習者が自信を持って次のステップへ進めるようにするための「足場作り」と考える。
脳の構造と機能について、まず理解しておく図 https://wp.me/a9O0e7-Nb
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5/21,22 第5回 幼児期の心と脳の発達の特徴
幼児期は言語と認知の著しい発達の時期であり、脳の可塑性が高く、外部からの刺激が発達に大きく影響する。ピアジェはこの時期を「前操作期」と位置づけ、自己中心的な思考や象徴的な空想遊びが見られるとした。ヴィゴツキーは、他者との対話が思考を育てるとし、独り言のような「私的発話」が行動の調整に役立つとした。語彙の爆発的増加や複雑な文の使用は、周囲の言語環境の影響を強く受け、特に会話の質が重要である。こうした言語発達は「心の理論」や他者理解の土台となり、共感や社会性の育成にも関わる。
また、自己制御の力もこの時期に育まれ、感情や欲求のコントロール、ルールに従う行動などが発達していく。この能力には「実行機能」が関係し、抑制、ワーキングメモリ、柔軟な行動切替が求められる。ふり・ごっこ遊びはこの機能を高める手段とされる。育児者の応答的な関わり、文化的価値観、教育カリキュラムなど、自己制御の発達には多様な環境要因が相互に関与している。
脳の発達面では、言語を担う左脳のブローカ野とウェルニッケ野の成熟が重要である。特に6〜12か月の間に母語音に特化した脳の反応が見られ、「臨界期」以降の言語習得は難しくなる。脳の神経可塑性により、経験によって神経回路が強化されるため、豊かな言語環境は発達を促進する。一方、発達障害や聴覚障害の子どもでは、脳の働き方に違いが見られ、早期の支援と理解が必要である。
看護の現場では、こうした発達の兆候を観察し、保護者との対話や支援機関への橋渡しを行う役割が重要である。絵本の読み聞かせや語りかけは言語発達だけでなく脳の構造的成長にも寄与する。看護師は、医療と教育、家庭と地域をつなぐ存在として、子どもの発達に多角的に関わることが求められる。
資料 人間は、脳の何処を使ってことばを聞いたり、話したりしているのか
https://www.neuropsychology.jp/wp-content/uploads/2025/05/Broca-Wrenicke-field.jpg
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5/14,15 第4回 乳児期の心と脳の発達の特徴
この章では、生まれてから1歳ごろまでの乳児の心と脳の発達について、看護の視点から取り上げた。乳児にとって最も大切なことのひとつが「愛着」である。愛着とは、養育者との間にできる安心できる心のつながりのことであり、乳児が人を信じたり、外の世界に興味をもったりするための土台になる。愛着がしっかりと育つことで、乳児は安心して笑ったり、泣いたり、さまざまな感情を表現できるようになる。
愛着のはじまりには、「共同注視」や「社会的微笑」など、赤ちゃんと養育者が目と目を合わせたり、一緒に物を見たりするやりとりが関わっている。また、愛着の形成には、養育者が乳児の気持ちに気づき、やさしく反応する「感受性」が大切であることも説明されている。
さらに、この章では乳児の脳の発達についても取り上げている。乳児の脳は生まれたときには未熟であるが、経験やふれあいによって急速に成長していく。神経の伝わり方がスムーズになる「髄鞘化」や、視覚や聴覚などの感覚をまとめて処理する「感覚統合」といったしくみが、赤ちゃんの学びや動き、感情の発達を支えている。
また、愛着が脳の働きにも影響を与えることがわかってきている。養育者との温かいふれあいは、オキシトシンというホルモンを分泌させ、乳児に安心感をもたらす。こうした愛着の経験が、将来の社会性やストレスへの強さにも関係してくるのである。
看護の現場では、乳児とその家族がよい関係を築けるように支援することが求められる。愛着と脳の発達について理解を深めることは、看護師として乳児の健やかな成長を支えるためにとても大切である。

https://wp.me/a9O0e7-Mg オキシトシンの説明
5/7,8 第3回 胎児期と新生児期の心と脳の発達の特徴
胎児期と新生児期は、心と脳の発達が始まる極めて重要な時期である。胎児は母体内で触覚・味覚・聴覚・視覚といった感覚を順に発達させ、外界からの刺激に反応するようになる。
特に聴覚は早く機能し、母親の声や周囲の音を聞いて学習している。新生児は泣き声や微笑みなどを通じて快・不快といった情動を表現し、養育者との相互作用の中で感情を発達させていく。このようなやりとりは愛着の形成につながり、情緒の安定や社会性の基礎を築く。
脳の発達は神経管の形成から始まり、大脳や小脳の成長、神経細胞間の結びつきであるシナプスの増加を経て、感覚・運動・認知といった高次機能が育まれる。さらに、シナプスは使われないものが刈り込まれ、効率的な神経回路が整備される。この過程には環境からの刺激が深く関与しており、適切な刺激が脳の発達を促す。
母体のストレスや栄養状態は胎児の発達に大きく影響するため、妊娠期の心身のケアが極めて重要である。出生後のカンガルーケアなどの支援も脳の成熟や親子関係の形成に効果がある。
看護師は、こうした知識をもとに母子への支援を行い、子どもの健やかな成長を支える責務を担っている。
4/23,24 第2回 生涯発達心理学の概要(脳と心の発達)
第1節 心の発達とは何か
人間の発達(development)とは,どういうことを指すのか。人間は生まれたときは白紙だといわれる。これは経験論の立場である。この考え方は人間の発達では,環境がいかに大きな影響を及ぼすかということを重視することになる。人間の発達には、生得的な遺伝子が発達要因として隠されている。これが人間の発達に及ぼす場合は、生得説という。環境要因と遺伝要因がお互いに影響しながら人間の発達は行われる。
人間のどのような機能が、より遺伝的要因によって規定されるか、また逆にどのような機能が環境要因によって規定されるか。個々の要因、例えば、知能、性格等について細かくみていく必要があろう。
環境閾値説と輻輳説
家系研究法と双生児研究法
臨界期という概念は重要
ローレンツ先生のカモ親子の散歩のシーンのを想像してほしい。卵からふ化した数匹の小ガモが、親ガモの後から小ガモがよちよちとついて行くシーンだ。小ガモは孵化した直後に、最初に見た動く対象に対して追従行動をしめす。多くの場合は、親ガモの後に追従することになる。もしそれがローレンツ先生であったならば、ローレンツ先生に追従し始め、実の親ガモには追従しない。一度その行為が形成されると、二度と親ガモへの追従は行われない。発達には臨界期が存在するということをローレンツ先生は発見した。
この刻印付けの現象は、発達の初期にある特性が形成されると元に戻らないことになる。三つ子の魂百までということわざもこのことから示唆されることかもしれない。臨界期の考え方は、その後の発達過程でみられる特性に対して説明する敏感期という概念にも応用されよう。
発達を捉えるとき、そこには発達理論がある。
発達の初期の段階、例えば、青年期までの発達過程を分析した理論としては、
ピアジェ、ヴィゴツキ-の理論が有名である。また、人生の初期から老人に至る人生を俯瞰したものとしては、エリクソンの生涯発達の理論が有名である。詳細については添付資料参照すること。成人期以降の発達に対する理論についてはこの章では扱わない。
もう一つ重要な発達の捉え方に、発達課題というものがある。各発達段階には、その段階で成し遂げてないといけない宿題みたいな課題があるという捉え方である。この課題をうまく達成してないと、次の発達がうまく遂行できないということだ。たとえば、青年期には、異性との恋愛などが発達課題として挙げられよう。
心の発達と同時に人間は生物である故に、身体の発達を無視して心の発達を論ずることはできない。心と身体は同時に発達していくのであるから、心の発達を理解しようとすると、どうしても身体や脳の発達を無視することはできないであろう。
身体の発達について少し考えてみることにする。身体の発達にも原理がある。体の発達には上昇的な発達時期と比較的安定的な発達時期がみられる。上昇的な発達時期は乳幼児から青年の時期であろう。その後は身体的な発達は緩やかな負の発達を辿り、最終的には死を迎えることになる。また、発達には順序性というものがある。1つは、上部から下部への発達、例えば、頭部、首、胸、足、足首、また、中心部から末梢部の順序性がある。これは、肩、腕、手首、指先へと発達していく。箸をうまく使えるようになる行為の観察で、この発達過程がよく理解できよう。
第2節 脳と身体の発達
次に脳の発達について若干説明しよう。
脳神経のことをニューロンという。ニューロンが集まって脳という塊になる。1つのニューロンは神経細胞、髄鞘、樹状突起などから構成されている。ニューロンの集合体が脳である。生誕後の脳は発達し、心の発達を支える物理的存在となる。脳がないと心は存在しない。ここでは脳の詳細については述べないが、乳児からの発達過程で、脳のニューロンも変化する。樹状突起の形成の発達について若干説明しよう。樹状突起が伸びていくことが、発達の1つの指標として捉えることができる。樹状突起の伸長の程度は、ピアジェの発達段階と対応すると考えられている。たとえば、ピアジェの発達段階での具体的操作期と形式的操作期では、樹状突起の密度が変化するということを仮説的に説明できる。前操作期の幼児期では樹状突起の密度はさらに貧弱である。
第3節 脳と心の相互作用の基本的枠組(個人システムと社会脳の発達)
最後に「社会脳」という概念について説明しよう。
前回の講義で、「ミラーニューロン」のビデオを視聴した。
人との関係の中で、ミラーニューロンを鍛え、人間は社会性を発達させていく動物である。社会性の発達は、一般には、母子関係から、家族関係、学校環境関係、そして、職場を初めてとす社会関係のなかでなされる。その関係には常に他人が存在する。人生の中で、親、兄弟(姉妹)、友達、先生、同僚、先輩らと自分の脳と彼らとの脳を共有しながら生活している。言い換えると、彼らの脳と自分の脳を共有していると言える。共有することで、自分の脳を形成して生きていく。そこでできた自分の脳は社会脳である。社会脳は心と身体とともに存在する脳である。社会脳は、別の言い方をすれば、環境脳ともいえる。生涯発達心理学では、この社会のという視点で、脳と心の発達を捉えていくことが重要になる。
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講義資料添付 https://wp.me/a9O0e7-L8
4/16,17 第1回 生涯発達心理学を考える
- オリエンテーション
講師紹介
- 琉大名誉教授 放送大学教授 沖縄学習センター所長
- 放送大学と浦添看護の関係 提携校とは
- https://ssl.urasoe-ns.ac.jp/course/open_univ.html 放送大学との連携
- 1982 沖縄赴任 当時から 看護学校で講師、 那覇看護、コザ看護
- 浦添看護との関係は、 元は県立の看護学校、その特色は
- 沖縄の看護学生の特徴とは
人生における、人の悩みは
ミラーニューロンのビデオ参照
幸せとは何か 生涯発達心理学において考えていきたい
Alfred Adler アドラー心理学
「生涯発達心理学」講義概要添付
本講義では、心と脳の発達の両視点から、人間の生涯発達について統合的に理解することを目的とした科目である。子どもから成人そして老人にいたる各年齢層における心理的変化を、それを支える脳の発達の観点を加えながら学ぶ。将来看護実践の現場で仕事をしようとする学生にとっては、重要な科目になるに違いない。
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