6/18,19 第9回 前成人期と成人期の心と脳の発達の特徴

現代社会では、進学や就職などの多様な選択肢があるため、20歳代後半までを青年期とみなす傾向がある。この時期は自我同一性の確立、すなわち「自分らしさ」の模索が続く。一方、30歳代に入ると、配偶者や親密な他者との関係性を深めながら、家庭人や社会人としての役割を担うことが求められ、第2のアイデンティティが形成されていく。このような心理的発達は、社会的責任の受容や人間関係の成熟と密接に関係している。さらに40歳に近づくと、次世代への貢献意識が高まる一方、停滞感を抱く者もおり、いわば人生を再評価する時期となる。
成人期前期は、キャリアと家庭の両立が求められる時期である。「ライフ・キャリア・レインボー」というモデルでは、人生における複数の役割を重ねながら生きる様子が視覚化される。看護職のように不規則勤務を伴う職業では、家族の協力や職場制度がワークライフバランスの確保に重要であり、自身の価値観に基づいたキャリア選択が重要となる。
この時期、脳の前頭前野が成熟し、計画性や感情の制御、自律的な学習が促進される。アンドラゴジー理論では、成人は自己主導的に学ぶ傾向があり、実際に30歳代では主体的な学習が活性化する。また、神経可塑性により、新しい知識と過去の経験とを統合する学びが可能となる。扁桃体や報酬系の変化によって、外的な報酬よりも内発的な動機が強まり、「意味ある学び」へとつながる。
さらに、大脳半球の機能的な左右差が安定し、性による脳機能の使い方の違いも明らかになってくる。たとえば、女性は言語や感情認知において左右両方の脳を使う傾向があり、対人援助に活かされることが多い。このような性差を多様なスタイルとして理解する姿勢が大切である。
また、成人期は性的アイデンティティが再確認される時期でもある。性的指向や性自認の多様性に理解を深めることは、看護師として患者の尊厳を守るうえで不可欠である。LGBTQ+の人々への配慮や正確な知識は、偏見や無理解を避けるために必要である。特に成人期は、恋愛、妊娠、家庭形成などに直面する時期であり、看護教育においても、性の多様性を尊重する態度を育むことが求められる。