6/4,5 第7回 思春期(青年期前期)と青年期中期の心と脳の発達の特徴

思春期は身体的・心理的変化が著しい発達段階である。第二次性徴による急激な身体的変化は、自己意識の高まりと結びつき、特に女子では外見への関心が増し、自己評価に影響を及ぼす。男子でも精通や声変わりが自信の源となる一方、他者との比較により劣等感を抱くことがある。この時期、家庭の情緒的支援が心身の健全な発達に寄与し、看護職は子どもたちの変化を理解し支援することが求められる。

思春期は心理的自立の始まりでもあり、親からの精神的な自立を目指しつつ、経済的には依存する矛盾を抱える。多くの青年は親や教師に反抗しつつ自己確立を模索する。家庭内での対応はこの自立過程に大きく影響し、支援者は共感的理解をもって関わる必要がある。レヴィンが提唱した「境界人」という概念は、思春期の不安定な立場を象徴しており、自己像形成の難しさを示す。

アイデンティティの確立を求めて、人生を模索していく過程が思春期の中心的特徴であろう。家庭、学校、SNSなど多様な経験がその形成に影響する。家庭の安定した愛情が自己肯定感を支え、親の過度な期待は混乱を招くリスクとなる。思春期特有の感情の揺れは「疾風怒濤の時代」とも呼ばれ、ホルモン変化や前頭前野の未成熟により情緒が不安定になりやすい。看護職はこの揺れを自己形成過程の一部と受け止め、青年の語りに共感し支援する姿勢が求められる。

脳の発達も思春期に大きく進展する。自己制御能力は未成熟であり、報酬系の感受性が高まる一方、抑制を司る前頭前野の発達は遅れる。結果として、短期的快楽への傾倒や衝動的行動が増加する。仲間の存在も自己制御を乱す要因となり、リスク行動を助長する可能性がある。睡眠リズムの変化も自己制御低下に影響し、生活習慣への支援が重要である。

前頭前野は計画性や抑制機能を司り、成熟には20代半ばまでかかる。思春期では情動処理を担う扁桃体が先行して活性化し、感情的反応が優位になりやすい。情動コントロールの未成熟さは親子間の衝突や情緒の不安定さと関連し、看護支援ではその背景を理解することが重要である。

扁桃体は怒りや恐怖などの情動を迅速に処理し、思春期には特に活性化しやすい。社会的評価への過敏さは扁桃体活動と関連し、不安や羞恥心の高まり、社会的回避を招きやすい。さらに情動的記憶の強化により、ネガティブな体験が長期的影響を及ぼすリスクがある。性ホルモンの影響も情動反応に関与し、男女で異なる傾向が見られる。

リスク行動は報酬系の過敏性と前頭前野の未成熟に起因し、思春期に特有の現象である。報酬系の感受性の高さは依存症リスクとも関連し、仲間からの評価欲求も行動選択に影響を与える。看護の場面ではリスク行動を単なる問題視せず、発達的背景を踏まえた支援が求められる。

親子関係は思春期に質的変化を迎え、心理的距離が再編される。オキシトシンが親子間の情動的絆を支え、家庭の安定はストレス応答系の調整に寄与する。家庭内の不安定さはHPA軸の過剰活性を招き、慢性的なストレス反応に繋がるリスクがある。

友人関係は思春期において重要性を増し、仲間からの承認は強い動機付けとなる。同調行動は社会的認知機能の発達と関連し、共感能力の高まりとともにピア関係の質が向上する。仲間からの拒絶は強い心理的痛みをもたらし、前帯状皮質の活性化と関連する。共感の神経基盤であるミラーニューロン系もこの時期に発達し、対人関係における情動的つながりを深める。

SNSの普及により、思春期の対人関係と脳機能への影響が拡大している。SNS上での社会的推論は前内側前頭前野の活動を促すが、対面的経験の減少が心の理論の発達を妨げる可能性もある。

看護支援では、思春期の患者に対して共感、尊重、信頼を基盤とした関係構築が不可欠である。ラポール形成は脳内報酬系を活性化させ、心理的安定を促進する。共感的対応は自己開示を促し、安心できる環境を提供する。思春期の情動反応には扁桃体と前頭前野の未成熟が関与しており、看護師はこの背景を理解し、落ち着いた支援を行うことが求められる。

ストレスを心理学と生理学から理解する https://www.neuropsychology.jp/wp-content/uploads/2025/06/20250603_What-is-Stress.pdf