本章では、思春期(青年前期・中期)を、子どもから大人へ移行する過程において、心と脳の両面で大きな変化が生じる時期として位置づけられる。思春期には第二次性徴による身体的成熟が始まり、身長の急激な伸びや性差の拡大がみられる。こうした身体変化は自己意識の高まりと深く結びつき、外見への関心や他者評価への敏感さを強める。
また思春期は、心理的・社会的自立を模索する時期でもある。親から距離を取りながらも情緒的な支えを求め、自立と依存の間で揺れ動く。この過程のなかで反抗や葛藤がみられるが、それは自分なりの価値観や生き方を模索する発達過程の一部である。エリクソンのいうアイデンティティの確立は、この時期の重要な課題であり、家庭・学校・友人関係・SNSなどの経験を通して自己理解を深めていく。
認知面では、形式的操作期に入り、抽象的・論理的思考が可能となる。一方で、自分が常に他者から注目されていると感じる「想像上の観客」や、自分だけは特別であると考える「個人的神話」など、思春期特有の認知傾向もみられる。さらにワーキングメモリや記憶機能が発達し、学習能力が向上するが、感情の影響も受けやすく、不安やストレスは学習効率の低下につながることがある。
脳の発達では、報酬系や扁桃体の働きが活発になる一方で、それらを調整する前頭前野の成熟は遅れて進む。この発達のアンバランスによって、刺激や快楽を求める傾向が強まり、衝動的行動やリスク行動が増えやすくなる。また仲間からの評価や承認が大きな意味をもち、同調行動も増加する。睡眠リズムの変化による睡眠不足も、感情の不安定さや学習面への影響をもたらす。
対人関係では、親子関係の再編が進む一方で、友人関係が心理的支えの中心となる。仲間とのつながりは自己理解やアイデンティティ形成を促進するが、排斥や孤立は大きな心理的苦痛につながる。オキシトシンやHPA軸などの生理的仕組みも、親子関係やストレス反応と深く関係している。
最後に本章では、思春期の若者の行動を単なる未熟さや問題行動として捉えるのではなく、その背景にある脳の発達と心理的課題を理解することの重要性を強調している。看護学生には、思春期の若者が自己形成の途上にあり、感情や行動が揺れ動くことを理解したうえで、共感・尊重・信頼を基盤とした関わりを実践してほしい。安心して自分を表現できる関係性を築くことが、思春期の健やかな成長を支える重要な支援となる。