本章では、児童期を「学習能力・社会性・道徳性」が大きく発達する時期として捉え、心の発達と脳の成熟との関係について多面的に扱っている。児童期は小学校6年間に相当し、低学年から高学年へ進むにつれて、思考力や感情調整能力、対人理解が大きく変化する。ピアジェの発達理論では、この時期は「具体的操作期」に位置づけられ、論理的思考や他者視点の理解が進む時期である。子どもは「保存の概念」や「可逆的思考」を獲得し、目の前の具体的な事象について論理的に考えることが可能となる。また、自分の考えを客観的に振り返るメタ認知能力も発達し、学習方法を調整する力が育っていく。
さらに児童期は読書活動が発達に大きな影響を与える時期でもある。低学年では絵本や短い物語を通して感情理解や集中力が育ち、中学年では冒険物語や科学読み物を通して論理的思考が促進される。そして高学年になると、歴史や社会問題を扱う物語への関心が高まり、自己理解や将来への展望が形成されていく。読書は単なる知識習得ではなく、感情や社会性、想像力を育てる重要な経験として位置づけられている。
また、この章では児童期の道徳性や社会性の発達について述べられている。コールバーグの理論によれば、児童期の子どもは「良い子でありたい」「ルールを守りたい」という慣習的水準の道徳判断を示すようになる。家庭や学校での経験、周囲の大人の態度は、この道徳性の形成に大きな影響を与える。さらに児童期は、仲間関係が重要性を増し、子どもは友人との遊びや協同活動を通して、集団内での役割や他者への配慮を学んでいく。この過程では社会的比較による自己理解も進み、自尊感情や自己評価が形成される。一方で、否定的な評価や失敗体験は自己否定感につながる可能性があるため、周囲の大人による適切な支援や肯定的な関わりが重要となる。
一方、脳の発達面では、児童期は大脳新皮質の髄鞘化が進行し、とくに後頭連合野や側頭連合野の成熟が著しく進む時期である。視覚・聴覚・触覚など異なる感覚情報を統合する連合野の発達によって、「読む」「書く」といった高度な言語能力が向上する。読み書き能力の基盤となる角回や縁上回の成熟により、語彙や文章理解が発達し、学習能力が高まる。また、前頭前野の発達に伴い、実行機能も向上する。抑制機能、シフティング、アップデーティングといった能力は、授業中の集中や問題解決、集団活動への適応を支える重要な認知機能である。
さらに児童期では、海馬機能やワーキングメモリの発達が重要で、児童期の海馬は記憶形成に重要な役割を果たし、学習や体験を通して神経回路が強化される。一方で、強いストレスや不安定な環境は海馬機能に悪影響を与え、記憶力や集中力の低下につながる可能性がある。そのため、安心できる環境や肯定的な声かけが、子どもの学習意欲や脳の発達を支える重要な要素となる。また、認知的柔軟性やワーキングメモリの発達は、学習だけでなく社会的適応にも深く関係している。
さらに、こごではADHDや学習障害(LD)についても取り上げられている。これらは単なる努力不足ではなく、脳の情報処理や実行機能の特性に関連している。支援においては、課題を小分けにする、視覚的支援を用いる、予測可能な環境を整えるなど、発達特性に応じた工夫が必要である。また、共感性の基盤としてミラーニューロンの働きにも触れられ、他者理解や社会性の発達には脳機能が深く関与していることが示されている。
最後に、本章では看護・教育・福祉の支援者に求められる姿勢について強調されている。児童期の子どもは、年齢が同じでも発達段階や実行機能の成熟度に大きな個人差がある。そのため支援者は、子どもの行動を単なる問題行動として捉えるのではなく、その背景にある認知発達や脳機能の特徴を理解する必要がある。看護学生には、子どもが安心感をもって学びや治療に向き合えるよう、共感的で柔軟な態度を身につけ、保護者とも連携しながら発達を支援する視点を持ってほしい。