40歳を迎える頃の女性看護師たち

大学病院で最も多忙で高度な知識と技術を求められる職場はどこか。それは手術室の看護師たちである。彼女たちは日々、患者の状態や疾患の特性を理解しつつ、術式に応じた看護技術を磨いている。


 たとえば脳外科の患者であれば、朝一番に手術が始まる。病棟で麻酔導入に立ち会い、正午近くになると開頭手術が進み、主治医が腫瘍摘出に取りかかる。脳外科手術では執刀医が顕微鏡下で脳の特定部位を視認し、繊細な操作を行う。視線をわずかに外せば、次にその部位を探すのに時間を要するため、医師は病巣部位を見続ける。その間、看護師は医師の動きや手順を読み取り、必要な器具を正確なタイミングで渡さなければならない。もし器具を取り違えれば医師の集中が途切れ、手術の流れにも支障をきたす。看護師には、手術の進行を常に把握し、先を読んで動く力が求められる。


 こうした現場で働く看護師は、前日に翌日の手術計画を確認し、使用する器具や手技を予習する。毎日が緊張の連続であり、最新の医療知識と判断力を維持する努力が欠かせない。使命感と責任感を持ち、最前線で医療に携わるのが手術室の看護師である


 大学病院に勤務して十数年、四十歳が近づくころになると、多くの看護師が一つの節目を迎える。同期の多くは結婚し家庭と仕事を両立させているが、手術室の看護師の中には仕事一筋で努力を重ね、独身のまま看護職に情熱を注いでいる人も少なくない。三十代後半になると、そうした看護師の中に将来への迷いや葛藤が生じてくる。


 「自分はこのまま看護師として働き続けてよいのだろうか」「女性としてやるべきことを見失っていないだろうか」。
 こうした問いがふと心に浮かぶ。結婚はいつでもできるかもしれない。しかし子どもを産み育てる時期には限りがある。その現実を前に、仕事への誇りと人生の選択のあいだで悩む人は少なくない。


 私が大学病院の脳外科で神経心理検査を担当していた頃にも、そうした看護師と出会うことがあった。外来前の休憩室でコーヒーを飲みながら、彼女たちは仕事の緊張感や将来への不安を語ってくれた。「夜眠れない日が続くこともある」と打ち明ける人もいた。患者の命に向き合う職場で働くからこそ、彼女たちは自分自身の人生にも真摯に向き合わざるを得ないのだろう。


 男性の看護師や医師が同じ状況に置かれても、こうした悩みを抱くことは少ない。女性には年齢とともに訪れる「時間の制約」がある。職業人としての成長と女性としての生き方。その両立の難しさを痛感するのが、まさにこの時期である。
 四十歳前後という年齢は、看護師としてのキャリアの成熟期であると同時に、人生を見直す時期でもある。仕事に全力を注いできた人ほど、その分だけ選択の重みを感じるのかもしれない。私は彼女たちが抱える迷いや揺らぎを特別なものとは考えていない。それは真剣に仕事と人生に向き合ってきた結果として、ごく自然に生まれる心の動きである。