ジョン・レノン「Starting Over」を聴く ― 人生の再出発 ―

あるとき、ふと昔の曲を聴き返したくなることがある。
その中の一つが、ジョン・レノンの「Starting Over」である。

皆さんは、ジョン・レノンという名前を聞いたことがあるだろうか。もしかすると、「イマジン(Imagine)」という静かな曲を学生の時に聴いたことがあるかもしれない。平和を願うあの曲を作り、歌っていたのがジョン・レノンである。彼は1960年代に「ビートルズ」という世界的なバンドの中心メンバーとして活躍し、音楽で時代を動かした人物だった。だが、彼の人生は華やかな成功の裏で、迷いと再出発の連続でもあった。
「(Just Like) Starting Over」は、そんなレノンが40歳のときに作った曲である。音楽活動を休止し、家庭で子育てに専念していた。彼が再び創作の開始を決意したとき、この曲が生まれた。タイトルの“Starting Over”とは、「もう一度、最初からやり直そう」という意味である。人は何度でも新しく生き直せる──そんなメッセージがこめられている歌詞である。
歌詞の中で、長年連れ添ったパートナーと「出会った頃のように、もう一度一緒に歩き直そう」と語りかける。彼は単なる恋愛の再燃を歌っていない。歌詞の内容は過去を見つめ直し、今から新たに人生を生き直す人間の再出発として私たちに語りかけている。「さあ、翼を広げて飛び立とう」というフレーズを聴くと、聴く人自身も“よし、もう一度やってみよう”と心の奥から勇気をもらえる。
心理学者エリクソン(Erikson, 1950)は、人の発達を「生涯にわたる心理社会的課題」としてとらえた。その中で中年期は、“次の世代や社会への関わりを通して自分の存在の意味を再確認する時期”とされる。毎日が仕事や家庭の雑務に追われると、人は「このままでいいのか」「自分は何を残せるのか」と人生に迷いが生じることがある。レノンが音楽の世界から一度離れ、家庭生活の中で生き方を見つめ直したのも、まさにそのような内省の時期であったと考えられる。
人は自分の人生の中で誰でも失敗や喪失、停滞を経験する。そこから立ち直るのに必要なのは、過去を否定することではなく、受け入れたうえで次の一歩を選ぶ力である。心理学的には、レジリエンスと表現されるものである。この歌は「やり直す」という行為を、後戻りではなく「再び自分を信じる勇気」として響いてくる。読者の方も一度視聴することをお勧めする。きっと勇気をもらえると思う。
ジョン・レノンは、この曲を発表した直後に暗殺され、このことで命を落としてしまった。しかし、彼の歌声にはいまも「もう一度始めよう」という温かなメッセージが息づいている。中年期は終わりではなく、人生の物語をリライトする時期である。たとえ不安や迷いがあっても、あの歌のように、自分の中にある小さな“翼”を広げることから始めればよい。「Starting Over」――それは、誰にとっても生きることのもう一つの始まりを思い出させてくれる歌である。その確信が、他者を支える力の根になっていくのかもしれない。